顧客の信頼をつかむため期待以上の仕事を続ける、その蓄積が将来を作る。
職業人生で得た経験に形を与える方法は様々ある。文書にするのは特に有効な方法だ。「150点の法則」、あるいは「100人中の50番以上を全員が目指すことで全体が弁証法的に発展する」といったロジックは、書く作業を経てはじめて確立される面がある。しかも、それが書籍になれば、次の代にこの上ない豊かな実りをもたらすだろう。
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――司法書士として30年以上仕事をしてきた経験をまとめた書籍を出版予定だそうで、それも、事務所の若手司法書士に読んでもらいたいとか。若手にはこれ以上ない教科書になるでしょう。
- 高野
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若い司法書士を勇気づけるような気持ちで書き進めています。今までに職員宛てに研修資料として書いてきたものも含めると100万文字近くありますが、その抄訳を単行本で出す予定なのです。来年8月の出版を見込んでおります。
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――事務所を開いたのは29歳の時だったとか。それまでは何を?
- 高野
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一番初めは、大学を出て金融会社に勤めました。しかし、どうも打ち込むことができず、司法書士事務所に転職して書士の資格を取りまして、次に不動産会社に移り、それから自分の司法書士事務所を開きました。
事務所を何度か移転して、現在の新宿に至ります。順調に発展してこられたのは、始めて間もない頃にS社長という方との出会いに恵まれ、公私ともに非常に良くしていただいたおかげだと今でも思っています。
また自分でも、S社長をはじめとしてご依頼くださる方々の信頼を裏切るまいと、「150点の法則」を自らに課して仕事を積み重ねてきたことが、実を結んだのでもあろうかと考えております。
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――150点の法則とは?
- 高野
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依頼人が100点を期待されている時に100点の仕事で留めたらそれは0点です。「ここまでやってくれるのか!」と驚かれるところ、たとえば150点までやってはじめて仕事をしたと言える。そう考えるのが「150点の法則」です。
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――事務所の皆さんにとって、若手の頃に事務所の長からそういった姿勢を吸収できるというのは、その後のキャリアにも有形無形に役立つでしょう。
- 高野
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私の事務所で働くことで職業人として自信のもてる何かを得られるように。それが職員に対しての、私のせめてもの存在意義であると心しております。
私は共に働く仲間と良いお客様に恵まれたおかげでここまで来られました。本当に、過分な幸せを授けられた人生です。この上はもう、自分一個のことではなく、次の世代に何を残せるかが私のテーマだと考えています。
開業以来の得意先様について消長変遷をつづった記録を残しているのも、首都圏ネットワークがいかにして信頼という財産を得てきたかの道のりを知ってもらい、それを各自の司法書士人生に重ねて、これからの財産としてほしいからです。
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――道のりといえば、所長のこの部屋にはまっすぐに伸びる道を描いた絵の額があります。
- 高野
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日本画家の東山魁夷の「道」という作品です。私はこんな絵を描きたい一心で日本画の勉強をしたこともあります。
この「道」の絵は常に私のそばにあって私を励まし、私の心と行いを、正しく、強く、導いてくれました。私自身も職員に対してそのような存在でありたい。そう願っています。